養蚕農家の生活9 ヒキ拾い

養蚕農家の生活9 ヒキ拾い

 庭起き1週間をこえるころになると、蚕は太ぶとと大きくなり、急に桑を食わなくなります。そして首のあたりからあめ色に透きはじめ、首を上に伸ばして何かを探すようにうごめきはじめます。この状態を「ヒキた」と言い、一刻の猶予もできません。まごまごしていると蚕座に糸をかけ始めるからです。このような状況は、親たちは長年の経験で、隣近所で蚕の進んでいる家、遅れている家があり、そう忙しくない家等「えいっこ」(手伝いのしあい)できる家にお願いしておいて、互いに手伝いっこするのです。
 朝早くから箔や蚕巣を庭に運び出して「ヒキ拾い」(蚕を蚕巣にいれてやる)の用意をしていると、お手伝いの人が4.5人来てくれて、一番進んでいる前の蚕室からヒキ拾いを始めます。拾うのは手の早い女衆、蚕を箔に撒いて蚕巣を立てるのは父とわぜのおじさんで、1箔に撒くヒキの数は約400匹、箔8枚の繭の目方が一貫目になる程度という。ヒキを運ぶのは私と妹という分担でどんどんはかどります。ヒキを拾った後はすぐ蚕座の方付けです。これは全員で、こさで(桑棒)をまける者、これを裏の畑に運ぶ者、次は蚕(こ)糞(ふん)を大きな箕(み)ですくっては前の畑へ運ぶ、この忙しさはまさに戦争です。床をきれいに掃いた後は、今までできた「やとい」(ヒキを撒き、蚕巣を立てた箔のこと)を手渡しで大棚に差し込む。この作業をくり返し、くり返しして家中のヒキ拾いが少し遅いお昼には終わるのです。
 お昼にはお祝いでもあり、お手伝いしてもらった人達に御馳走をします。普段は食べない白米のご飯にサケの缶詰めや冷奴におやじ達は焼酎といったところだ。    「養蚕業について」西沢吉次郎著より

 写真は、塩尻小学校郷土資料館より。手前で、「ヒキ拾い」をし、奥で、「やとい」をしている。

登録日:2021-11-15 投稿者:やまさん
地区コード上田市
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    カテゴリ名養蚕農家の生活
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