養蚕農家の生活10 繭かき・出荷 

養蚕農家の生活10 繭かき・出荷 

 やといの入った各部屋は練炭を入れて暖をとり、繭づくりをさせる。1日たつとヒキは糸をはいて繭の形を作り、3日目には白くなってヒキは見えないようになる。
 8日目には「繭かき」(繭の収穫)が始まる。非農家の女衆を3人ぐらい頼んで3日間ぐらいで終わらすのです。繭は20貫(75㎏)もたまればこれを「たて」(繭を入れる袋)に入れ、父は二つの「たて」を天秤で担ぎ、兄は「たて」を背負子でしょって東北(本原)の繭糸(けんし)会社の競(せ)り市(いち)に持って行くのです。私は後について見に行きます。
 繭糸(会社)には大勢の人が白い「たて」を持ちよって競りに出す順番を待っています。「ぼて」(大きな竹籠)に繭をあけ、競り台まで運ぶと、係りの男が大きな声で「○○の上等まい」と呼びながら競り台に繭をあけます。すると競り台を囲んだ仲買人(なかがいにん)たちが繭を握ってみたり、振ってみたりしてブリキの皿に値段を書いて係りの男に投げ返す。男はそれぞれの皿の数字を見て、一番良い値を読み上げ、売人がそれでよいといえば商い成立で、金額を書いた伝票をよこします。父はその伝票を持って事務室により、現金を受け取って会社を出るわけです。会社の前に居酒屋があって氷水等を売っているのですが、父にせがむこともできず、その前を通り過ぎて家に帰るのです。
 今もって不思議なことは、さんざん手伝っても繭は何貫とれてお金は何円になったということを父が私たちに話したことはありませんでした。また聞こうともしなかったことも不思議です。その頃は繭1貫目8円ぐらいでしたから、40貫とれたとしても320円(大正時代の1円は現代の4000円ぐらい。)だと思います。なにしろ父は吝嗇(りんしょく)でしたのでそれが普通だと思っていました。
           「養蚕業について」西沢吉次郎著より

 写真は、上田市誌「蚕都上田の栄光」より。大正時代の繭糸市場(上田)。仲買人たちが繭を検めながら競りをしている。

登録日:2021-11-15 投稿者:やまさん
地区コード上田市
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    投稿者やまさん
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    カテゴリ名養蚕農家の生活
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