上田の蚕業について④

蚕業を行っていた頃の農家の主婦についても現在の社会の状況と重なる部分が多々あります。
女性の労働について記録された書籍(「人権の確立と女性のあゆみ」 (平成14年)編集者 上田市誌編さん委員会 発行者 上田市・上田市誌刊行会より)に載っている写真を見ると、家の一角のような場所で女性や子どもが写っていたり、女性が男性に交じって働く写真があったり、特定の性別や年齢で限らず、人々の生活に蚕業が根付いていたように思われます。特に女性の仕事は家事育児、給桑作業や農作業など多岐にわたるように見受けられました。
同誌によると、

「明治から大正期に蚕糸業が全盛であった上田地域では、多くの農家の主婦が蚕の世話に始まる農作業や家事に追われ、目の回る忙しさでした。乳幼児をかかえた母親たちも例外ではなく、重要な労働力とされ育児に手がかけられません。まだ乳幼児が這い出さない時期は、(中略)稲藁を市松模様に編んだ籠の中に乳幼児を寝かせ、目が届く場所へ置いては親は仕事に精を出しました。子供が動き回るようになると、その子の姉が世話役を任されることがありました。経済的にゆとりのある家では子守女が雇われ、中には「子守奉公」といって、子守役として奉公にくる学齢期の女の子を頼む家もありました。」(同誌134ページより抜粋)

女性たちの労働環境を見ると、朝は誰よりも早く起き、朝食を作って、蚕など諸々の農作業の合間に家事、育児をこなし、帰ってからは大急ぎで夕食の用意をします。最低限の身なりは整えておく必要がありますが、忙しさのあまり、髪を結う時間もなく、夜中12時頃に丸髷を結い箱枕で寝ました。昭和恐慌は農家の経済を一層厳しくし、主婦の労働をさらに厳しいものとしました。(同誌191~193ページより要約)

という旨の記述があります。
女性が働こうとすると、子育てがおろそかになってしまう、またはコロナ禍で増加したテレワークを行う際には、自宅にいる子どもの子育てもしなければならないが、両立が難しい、経済が厳しくなると女性にしわ寄せがくるという問題などと重なる部分があると考えられます。しかし、現在これは女性の問題だけでなく、家族や社会のサポート体制が不十分であるという側面もあります。それは当時も同じだったようで、同誌によると、託児所の設置を訴える人(後に浦里村長となる)もいたようです。しかし、税金を使って託児所を作ることに難色を示す村民もおり、反対が強く、また託児所の保育を担当する人材を集めることも難題でした。それでも、託児所として集落の集会場や寺院が解放されたこと、保母も募集で確保できたこと、何より昭和十二年日中戦争が始まり、銃後の生産拡充のため労働力が必要とされ、子どもを託児所に預ける必要性が増したことで、公営託児所が設置されました。農村では戦争で男手を失ったうえ食糧増産が要請されることから保育施設は切実な要望となり、農繁期託児所はつぎつぎに開設されていきました。ただし、第2次世界大戦後、公営だけではとても収容人数が足りず、私営や無認可の保育所に頼っていたようです(同誌134~136ページより)。
以前から待機児童問題が社会問題となっていますが、場所の確保、保育士の不足、保育園の必要性など、やはり託児所の件に関しても現在と似ている部分があります。
集落の集会場や寺院を開放するという対応はとても興味深いと考えます。これらは今でこそ私たちの生活から縁遠い場所になってしまいましたが、本来人々の生活を助けるために使われていた場所です。実際に行おうとすると様々な問題があるでしょうが、安全や景観、文化的財産に配慮しつつ、できる範囲でもっと人々に馴染み深い場所にするということにも意味があると考えられます。また、子どもが遊べる場所を確保できるということも重要であると考えます。現在は町中に保育園をつくることは、騒音という側面から周辺住民に反対されるケースや、土地が狭く子供たちが遊びにくいような場所や、子どもたちの安全という観点から好ましくない立地である場合も見られます。当時、集会場や寺院のような村全体の財産を子どもたちのために有効活用していたことは評価すべきことであると考えます。
女性の労働についても、現在社会が抱えている問題と同じ問題点を資料の中に見出すことができます。現在の社会は結婚後も女性が働くことが良しとされる傾向にあり、何より日本の社会が不景気であるため、女性も働かないとお金が足りないという問題があり、妻であり母親である女性が働くケースが少なくありません。しかし、周囲のサポートが不足している、夫が家庭内のことに関わろうとしないなどの問題により、家事や子育ての負担が大きい、また、子どもが寂しい思いをするということもあります。また、当時の女医として働いていた女性についての資料では、「結婚後も旦那は家事に協力しようとせず、「家に帰れば縦の物も横にせず、全部女房にさせようとするタイプでした。」と語っており、(「人権の確立と女性のあゆみ」188ページより)当時から現在に至るまで、あまり状況は改善していないように見受けられます。女性、男性それぞれの特長を活かし、協力して労働するということが、互いの孤独感をなくし、満足度を上げ、現状や問題についての共通認識を持つことにつながり、プラスにはたらくと考えます。

登録日:2022-11-28 投稿者:tohu
地区コード上田市
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    投稿者tohu
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    カテゴリ名2022信州上田学テキスト
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