分散型地域デジタルコモンズ d-commons.netの開発

分散型地域デジタルコモンズ d-commons.netの開発

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▲デジタルアーカ犬

前川道博 d-commonsプロジェクト/長野大学

【1】はじめに
分散型地域デジタルコモンズは、地域デジタル知識循環型プラットフォームのコアとなる知識・データの共有地である[1][2]。その中核のクラウドサービスとなるd-commons.netを開発した。現在も地域資料のデジタルアーカイブ化、地域学習支援など多目的的で柔軟な運用、長期にわたる運用ができる課題解決の支援にd-commons.netを適用し、サービスの機能強化を図ってより実用性の高い、使いやすいサービスを目指している。

デジタルコモンズはさまざまな知識や学びの成果をどの地域からでも、誰でもが載せ合えるクラウドサービス上の「ネット上の本棚」(デジタルアーカイブ)、クラウドサービスとつながるリアルな社会(地域社会・企業・学校・個人など)を包摂した情報共有スペースと定義しておこう(図1)。


図1 地域デジタルコモンズの概念


分散型デジタルコモンズは、分散型のアーカイブ構築支援サービスPopCorn/PushCornの開発とそのアーカイブ構築への適用支援の実績を踏まえ、次世代型の分散型プラットフォームとして提案できるようエンハンスしたモデルである[3]。

【2】分散型デジタルコモンズサービスの概念
(1) 分散的で不均一な地域資料の構造特性
地域資料の諸データは多様で不均一なメタデータ構造を持つデータの集合体である。また図書館、博物館、文書館(アーカイブ施設)、学校、企業など多様な組織や個人がデジタルアーカイブの構築者となる。地域においては地域資料の体系やデジタルアーカイブに対する知識差も著しく異なる人々が遍く利用する。利用者間のICTスキル差も大きい。個別のアーカイブは総じて小規模なものが多い。

こうした地域特性を所与の条件とし、単一のクラウドサービスが分散型で運用できるモデルを作り、地域資料の構造特性の違いを超えて同一サービスで対応できるようにする。

本研究は、長野県下諏訪町立図書館からの受託研究として設計開発した下諏訪町地域アーカイブ[4]をクラウドサービスモデルとして整理したものである。多様な地域の諸ケースに対応できる普遍的・不変的モデルがいかなるものであるか、それが多数の利用者を対象とし、永続的に運営可能な地域デジタルアーカイブに適用できる可能性を拓いていけるかに設計の主眼を置いた。こうした多様な諸地域、諸資源の状況に適応しつつ、柔軟に地域資料のメタデータ構造に適応できるデジタルアーカイブのクラウドサービスの汎用的なモデル・方式を設計した。

(2) デジタルアーカイブの全般的課題
世界中で、また、全国で数多くのデジタルアーカイブが構築され続けている。近年、Japan Searchに代表される国家的規模のデジタルアーカイブ構築の取り組みも行われるようになった。そうしたアーカイブは、重厚長大なものであるため、地域資料をデジタルアーカイブ化したい意思を持つ人々や機関が手軽に利用できない。構築に多大な費用を必要とすること、ユーザの立場に配慮がなされていないこと、特定システムの適用を前提とした選定を受け入れざるを得なくなること、などの弊害がある。

デジタルアーカイブの課題は、社会的ニーズが熟せず、広がる気運すら見えない状況にあることである。大方の人々がデジタルアーカイブの必要性を感じていない。使ってすらいない。誰もが「地域アーカイブ活動」を始めたくなるような促しの具体策が求められる。

デジタルアーカイブのメタデータは極めてシンプルなものが基軸であってよい。デジタルアーカイブとは、構造化されたメタデータセットとエンティティデータを実体とするものであって、それを載せるサービスはどんなものであってもよい。むしろ平易に扱え、誰もが参加でき、プログラムも差替えが簡単にできる、あるいはそうした「敷居の低い対応」を容易にする方式こそが求められている。この点を念頭におき、下諏訪町地域アーカイブ構築においては、利用者の立場に立った平易で運用しやすいシステムとすることに設計の主眼を置いた。

【3】モデルケース/下諏訪町地域アーカイブの設計
(1) アーカイブサイトの概要
下諏訪町地域アーカイブ[4]『みんなでつくる下諏訪町デジタルアルバム』は、下諏訪町立図書館が2018年度から3年間をかけて取り組んできた地域写真を収蔵したアーカイブである。地元の写真館、旅館、個人などが所蔵していた写真約1500点が収蔵されている(図2)。一枚一枚それぞれが何を記録した写真であるのか、図書館職員が丹念に調査しメタデータを作成した。これらの初期収蔵写真を公開し、次年度以降、アーカイブサイトの構築・運営を地域の文化活動としてスタートさせていく計画である。町民有志もデジタルアーカイブ活動に参加することができる。町民参加運営では、「文化・歴史」の他、「食」「温泉・観光」等のカテゴリを設けて多様な地域データを永続的に投稿・蓄積し続けることができるサイト運営を行う。


図2 みんなでつくる下諏訪町デジタルアルバム


(2) 公共施設である地域図書館の新たな役割
その地域のデジタルアーカイブを誰が主体になって運営するかは、極めて基本的な地域アーカイブの課題である。現実にはMLA連携、MALUI連携が国などから声高に唱えられている一方で、さほど進んでいないのが実情である。補助金などにより獲得された予算を投じ、専門業者に開発・運営を委託している自治体等もあるが、下諏訪町立図書館の場合には、ミニマムな予算で町民参加の文化活動として地域デジタルアーカイブを始めることができている。

(3) 参加型地域アーカイブのデザイン
参加型アーカイブの要諦は、アーカイブのコンセプトのわかりやすさ、操作の平易さにある。自分が撮った画像がスマホから手軽に投稿できるような操作の手軽さが求められる。デジタルアーカイブは、複数の利用者が長年に渡り、利用者の入れ替わりなども想定しながら運営し続けることができることがサービス運営上の要件となる。

参加型アーカイブにおいて重要なことの一つは利用者(町民)から見ての親しみやすさ、わかりやすさ、操作のしやすさ等の良否である。クラウドサービスは幅広い利用者を想定した場合、嗜好性や価値観は大きく異なるものである。この点で、アーカイブサイトのデザインに対しては、若者層を代表する学生の目線、意見を反映させた。その結果としてハッシュタグ(任意キーワード)の活用、マスコットキャラクターの利用など、内容面の関心に誘う仕掛けや親しみやすさに配慮した。

【4】クラウドサービスの基本モデル設計
(1) 群小化対応の複合スキーマ構造モデル
下諏訪町の写真データは予め以下の項目でメタデータが整理されている。
①通番②タイトル③~⑦件名1~5⑧撮影場所⑨撮影西暦⑩撮影年月日⑪色調⑫大きさ⑬説明文⑭所蔵者⑮作業日⑯参考文献⑰著作権

地域アーカイブは要求仕様ごとにデータ構造は異なる。さらには同じアーカイブであっても内容によってデータ構造は異なる。不定形文書への対応も不可欠である。そのため、アーカイブデータを管理するデータベースでは、異なるスキーマを同一サイトで併用可能な複合スキーマ構造モデルを採用した。

(2) 可搬的データとデータエクスチェンジ
サービスモデルの設計では、アーカイブデータが異なるサービス間でもデータ互換(論理的構造変換)が可能なデータエクスチェンジ機能を設けること、ソーシャルメディア系の諸サービスとデータ入出力が図れるようにすることにも留意した。データがシステムの違いという壁を超えて可搬的に扱えることはアーカイブデータの永続的継承を保証する点からも欠かせない。とりわけオープンデータでの公開が標準化される現代においては、データの可搬性はアーカイブサービス具備すべき条件である。

サービスを構成するプログラムは極力修正が容易な平易なプログラムとすることを旨として開発した。プログラムが平易であることはサービスの更新・プログラムの差替えをしやすくするメリットがある。適用システムに制約されることなく、データの継承・保全を保障した上で、プログラムが差替えられて技術の進化、社会の変化に対応し続けていくことができることは長期運用が前提のデジタルアーカイブにとっては必須要件である。

【5】今後に向けた課題と方向性
(1) 他アーカイブサービスとの相互接続
分散型デジタルコモンズクラウドサービスのモデルを汎用化する上での課題の一つは不定形文書への対応の仕方である。筆者は、1997年以来、不定形文書を前提としたアーカイブ構築支援ツールPopCorn/PushCornを開発し、実運用を続けてきた[3]。本サービスとの違いは、不定形データ記述の対応の有無である。PopCornの場合、データ構造は共通部、個別部(可変部)の組み合わせで対処してきた。デジタルコモンズにおいては、前者はデータベースのスキーマ、後者はデータベースの1カラム(可変的個別部)の対応で可能である。データ構造を複合スキーマとしたことにより、この対応がさらにしやすくなった。

現代におけるアーカイブデータは、支障ない限り、オープンデータとして扱うことを前提とする。言い換えるとデータを可搬的に扱いやすくするためのデータ入出力のサポート、他システムの間でのデータエクスチェンジ機能の実装が欠かせないものとなる。

その他の一般的ニーズとしては、社会的に広く利用されているSNS系サービスとの連携・連動の実現課題がある。Twitter、Instagram、Flickr、YouTube、Facebook等のサービスへの連動投稿、また逆方向でのデジタルコモンズへの自動移行は欠かせない機能であろう。我が国のデジタルアーカイブプラットフォームJapan Searchとの連携実現も課題である。これらの機能は次段階での実装を想定している。

(2) 地域コミュニティ活動等への適合支援
デジタルコモンズクラウドサービスは、コミュニティ活動支援サービス、協働学習支援サービス、個人ポートフォリオ作成支援サービス等の多様な指向性を持つところに社会的有用性がある。

従来、デジタルアーカイブは特定の分野・目的で限定的に使われるものであった。デジタルコモンズは、コミュニティ活動等、多くの人々が個別に、あるいは協働して使って諸活動を持続的なものに、分断した世代間の交流、組織間の情報共有、コミュニケーションの交流促進などに役立つことが期待される。

一例を挙げれば、『みんなでつくる下諏訪町デジタルアルバム』は、町民図書館職員やアーカイブづくりに関わる市民有志ばかりでなく、小中学校における「地域学習」、行政からの統計データ等のオープンデータの提供、博物館等のデータの提供などが一体となり、分野・地域・世代で分離していた地域情報の出し合い・共有を進める契機となる。分散型デジタルコモンズは、どの地域においてもほぼ同様の問題解決に役立つものとなることであろう。

参考文献
[1] 前川道博. 地域の知の再編「地域デジタルコモンズ」の実現に向けて. 手と足と眼と耳. 学文社. 2018, p.15-37.
[2] 前川道博. 地域学習を遍く支援する分散型デジタルコモンズの概念. デジタルアーカイブ学会誌. 2018, Vol.2, No.2, pp.107-111.
[3] eメディア研究会. PopCorn/PushCorn. 1997-2022. https://www.mmdb.net/popcorn/
(参照 2022-03-13)
[4] 下諏訪町立図書館. みんなでつくる下諏訪町デジタルアルバム. 2020.
https://d-commons.net/shimosuwa/
(参照 2022-03-13)

登録日:2022-03-13 投稿者:d-commonsプロジェクト@長野大学
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