越後の伝説についての考察(『越後の国雪の伝説〔正〕』鈴木直著 昭和十七年七月二十二日発行)

越後の伝説についての考察(『越後の国雪の伝説〔正〕』鈴木直著 昭和十七年七月二十二日発行)

越後の国雪の伝説〔正〕に収録されている23の伝説の中の4つについて、それがなぜ生じたのかという自分なりの考察をおこないました。

*越後の国雪の伝説〔正〕とは、越後に古くから伝わる伝説のうち、雪に関するもののみをピックアップして収録した本です。なお、地域としては中・下越の中でも比較的豪雪な地帯の話が中心的です。

1,茂助地蔵
《あらすじ》
昔、一人の旅人がいた。宿屋を出発して目的地へと歩いていたが、天候は最悪で、顔を前に向けることも困難なほどの吹雪だった。そして、その途中で偶然にも一人の女性に遭遇し、自分の家に泊まっていくことを勧められる。旅人は女についていくことにし、彼女の家で手厚いもてなしを受けた。数日後、旅人は死体となって発見された。死因は凍死であり、近くの村の村人は旅人は雪女にやられたと結論づけた。さらに、遭難者の霊は寂しがって自分がやられたのと同じ方法で生者を殺すようになるということで、村人たちは互いに警戒を怠らないように心がけた。しかし、その後は不思議と数年間死者が一人も出ず、これを旅人の霊の加護のおかげだと考えた村人は、旅人が倒れていた場所に地蔵を建立した。旅人の名前は不明だが、この地蔵は現在茂助地蔵と呼ばれている。
《考察》
旅人はたしかに死んだ。しかし、旅人の死は雪女とは一切関係ないただの凍死であり、旅人の死後死者が出なくなったのは、村人が旅人の霊を恐れ危険に対してより警戒するようになったためだと考える。そして、その結果伝説が生じることになったと考察する。
2,雪の神様
《あらすじ》
昔、ある山に太郎作と次郎兵衛という二人の若者が暮らしていた。太郎作の家の戸を叩く者がいた。熊、狐、兎の三匹の獣だった。吹雪のためすみかに帰れなくなり、一晩泊めてほしいとのことだった。だが、狡猾な太郎作は弓矢で三匹とも射殺してしまった。霊体になった三匹は、再び吹雪の中を凍えながら右往左往することになったが、吹雪を抑え込もうと奮闘している雪の神様を偶然見つける。三匹の境遇を哀れんだ雪の神様は、彼らに暖かい着物を与えた。しかし、やはりすみかに帰れないことは変わらないため、三匹は今度は次郎兵衛の家を訪ねることにした。次郎兵衛はお人好しであったため申し出を快諾し、三匹を手厚くもてなした。その後、雪の神様は太郎作と次郎兵衛の家の様子を覗いたが、太郎作が処理した毛皮と肉を見て笑みを浮かべているのに憤慨し、北風を彼の家に駆り立てて去っていった。翌朝、次郎兵衛は三匹と共に楽しく朝食をとっていたが、太郎作は凍死していた。
《考察》
この伝説は、雪国のマナーを子供に教えるために大人が創作したものだと考察する。「泊まらせてもらえないだろうかと願い出る人がいたら、喜んで泊めてあげなさい。不親切にすると罰が当たりますよ。」ということを伝えたかったんだろうなと考える。雪女などの他の伝説と比べてあまりリアリティがない点、絵本にありがちな動物が人語を話して登場人物になっているという設定等も、この伝説を子供向けと考える根拠である。
3,雪の伝説
《あらすじ》
大昔、越後には少しも雪は降らず、人々は雪というものを知らなかった。そんな大昔のある年の冬の初め、旅をしていた一人の坊さんが休憩しようと茶店に入った。白湯を飲んでいると、店の奥の部屋に大勢が集まって何やら相談していることに気付いた。何について相談しているのか亭主に尋ねると、「領主様が明日村を巡視するという内容の御布令が先ほど出た。この領主様は気難しく、村の巡視で気に入らないことがあると村人を処刑したり牢屋にぶち込むことで有名であり、どうすべきか対策を協議しているところだ。」ということであった。坊さんは、考えた末に明日をうんと寒い日にし、さらに雪を降らせることを提案した。村人たちは雪を知らなかったが、坊さんに期待することにしてその日は解散となった。次の日の朝、外に出ると辺り一面雪景色であり、村人たちは狂喜した。そして、巡視も中止となった。この年以降、毎年冬になると越後に雪が降るようになり、雪は豊作をもたらすことになった。
《考察》
昔は雪の降るメカニズムなど解明できていなかった。子供に「どうして冬になると雪が降るの?」と聞かれた大人は答えに困っていたことだろう。しかし、この伝説を用いればその理由を説明することができる。さらに、仏教信仰の重要性を説く上でも都合が良い。「今、私たちが豊作によって豊かな暮らしを享受していられるのは雪のおかげで、雪はそのお坊さん、もっと言えばそのお坊さんが仕える仏教の神様がもたらしてくださったものなのですよ。だから、仏教を信仰し感謝を伝えなければなりません。」などと子供に教えることができる。この伝説も、2,雪の伝説と同様に子供のために大人が創作したものだと個人的には考えている。
4,消えた娘
《あらすじ》
ある寒い大晦日の夕暮れ、一人の娘がマッチと附木(マッチについた火を薪に移すためのもの)を売り歩いていた。朝からずっと売り歩いていたが、彼女から商品を買う者は一人もいなかった。飢えと疲労のため限界が近づき、寒さにも耐えられなくなった娘は、家と家の壁の間で立ち止まると、売り物のマッチに火をつけてあたたまろうとした。三本のマッチに火をつけると、正月のごちそうが自分の前に並べられているのを見ることができた。しかし、マッチの火が消えるとともに空想も消滅した。空想をもっと見たくなった娘は四本目のマッチに火をつけた。そして、今度は去年まで生きていた唯一の身寄りである祖母に会うことができた。火がまた消えそうになったため、娘は燃やせるものは全て燃やして少しでも長く火が続くように努めた。火が大きくなると同時に祖母の姿も大きくなり、娘は自分も一緒に連れて行ってほしいと祖母に頼み込んだ。祖母は娘を抱き上げたが、火が消えるのと同時に消えてしまった。翌朝、娘が笑みを浮かべたまま死んでいるのを町の人々が発見した。
《考察》
基になったのはアンデルセンの「マッチ売りの少女」の童話だろう。そして、この伝説は「マッチ売りの少女」を西洋について詳しく知らない人でも楽しめるよう、日本風にアレンジしたものだと考える。新潟は、1858年に日米修好通商条約で開港しており、それによって流入してきた外国文化の一つにこの童話があったのだろう。

まとめ
全体を通してこれらの伝説が広がった背景を考察するならば、本書内でも言及されていることではあるが、やはり当時の娯楽の少なさが挙げられるだろう。テレビもゲームも遊ぶための施設もなく、夜になって家に入れば子供たちは暇を持て余す。伝説は、そんな子供たちを飛びつかせるのにぴったりだったに違いない。科学の未発達や子供に教訓を伝えるといった役割もあったとは思うが、それ以上にこのことが要因としては大きかったのではと考えている。
また、考察をしていく中で、雪国で生きていくための掟を垣間見ることができた。
・寝る場所に困っている人がいたら、喜んでもてなして泊めてあげること。
・仏教を信仰し、日頃の感謝を伝えなければならない。
今の世の中では考えられないような常識や生活様式を知ることで、自分の知見を深めることもできたように思う。





参考資料

鈴木直 著『越後の国雪の伝説』〔正〕,目黒書店,昭和17-18.
国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1439694 (参照 2024-01-24)

登録日:2024-01-24 投稿者:スプーン
地区コード新潟県
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