上田の蚕業について②

上田の蚕業について記した記録には、工女の労働待遇について以下のような記述があります。

糸引きは手の器用さが求められることから繰糸の仕事は主に女性が行い、製糸工場で働く人の9割以上は女性で、男性は1割にも満たなかったそうです。製糸工場が盛んになるにつれ労働力を確保するため各工場が工女募集に力を入れるようになり、金銭面の事情から、前貸し金を用意できる大きい工場が有利でした。工女の8割ほどは16~26歳の義務教育終了から結婚前の人たちだったため、勤続年数によって、針箱・鏡台・ちりめん羽織などが出され、長期勤続者になると結婚するときの嫁入り道具が揃うほどでした。工場では休日を利用して、花見や温泉へ連れて行ったり、工場が落語・浪花節・義太夫などを聞かせる慰安会をすることもありました。楽しいひとときを過ごした翌日には体調を悪くしてしまう人もいて、工場では能率が上がらなくて困ったという話もありました。
(「上田市誌 近現代編(2) 蚕都上田の栄光」132、133、136ページ上田市誌編さん委員会 平成15年3月1日信毎書籍印刷株式会社より)

手先の器用さが求められるため女性の仕事とするのは、少々極端かとも思われます。また、一言で善し悪しを決めることはできませんが、職場にいる人のほとんどが同性というのは揉め事が起きやすくなったり、考え方が偏りやすくなる傾向にあるなどの問題点もあるかもしれません。加えて、職場で出会いがなくとも結婚ができるという、恋愛結婚が今ほどポピュラーではない当時の社会背景も見えます。前貸し金を用意できない小さな工場は大工場との差が開いてしまうという資本主義の問題点はありますが、前貸し金を用意したり、針箱・鏡台・ちりめん羽織など、工女や工女の家族にとって必要なものを提供することは柔軟な福利厚生であると思われます。工女のライフプランを見据えて必要なサポートを提供していたという観点から見ると、現代でも見習うべき要素があると考えます。慰安会の後に体調を悪くするということは問題点ではありますが、娯楽を提供することも、余暇を充実させるための意義ある取り組みであると同時に様々な芸能に触れさせることは文化的な感性や教養を身に着けさせることに一役買っていると思われます。針箱や鏡台など女性の身の回りのものを提供する職人や商人、温泉などのサービス業関係者や義太夫などの芸能関係者などにとっても良い影響を及ぼしたと考えられます。

登録日:2022-11-28 投稿者:tohu
地区コード上田市
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